中小企業診断士の一次試験は7科目もある上に科目合格という制度もあるため、さまざまな戦略があります。
この記事では、自由に作戦を立てられるからこそ陥ってしまうワナ、気を付けるべきことをまとめました。
中小企業診断士一次試験は科目によって目標点を変えるのが定番
「財務会計わからない・・・、まあいいか情報で70点は堅いし」
「もう法務は50点でいいや・・・、他でプラスが見込めるし」
さてさてこの発想の良し悪しは別にして、こんなことができるのも診断士試験の特徴ですね。
診断士一次試験は7科目あり、総合点420以上取れるかで合否が決まるからです。ただし1科目でも40点未満があればアウトですが。
つまり全科目60点取れなくても平均60点でいいわけだから、人それぞれ得意・不得意に応じて科目ごとに目標点を変えて挑もう!となります。
苦手なところは負けないように踏ん張り、得意なところで勝つ。当たり前と言えば当たり前ですが非常に実際的で合理的な戦略です。
例えば、冒頭の例のように得意科目で70点 苦手科目で50点を狙おうという作戦がよく見受けられます(書籍や予備校の案内などでもあるある)。
この作戦の注意点は、合計目標点をギリギリに設定しないということです。
科目ごとにどれだけ目標の差をつけても合計で420点ではちょっと心もとないからです。
本試験では科目ごとの難易度がかなり変動しますし、午前午後の2日がかりの試験は体力勝負もあるので思いがけないミスも発生します。700点満点の試験で1点や2点に泣く方も毎年相当数いるはずです。
理想は440点、最低でも430点くらいの力をつけることを目標にすることをおすすめします。
ですがそもそも一発合格を目指すなら、
「得意科目70点、苦手科目50点作戦」は、私は少し危険だと思っています。
苦手を避けると勉強の効率が低下する
得意なところで戦うというのはいかにも効率が良さそうですが、資格試験の勝負ではむしろ逆です。
得意を上乗せしていくより、苦手をつぶす方が効率がいいです。
ほとんどの試験に言えることですが、同じレベルの問題が100点分出題されるわけではありません。
超基礎レベルから難問までうまく配分されています。
そしてたいていは基礎的な問題がおおよそできれば難問は一つもできなくとも合格ラインに達するように設定されています。
テキストや過去問で学ぶことができるのはその基礎の部分です。
一方難問は初出であったり、時間内に解くのが難しすぎたりするので対策は困難です。
70点を目標にするということはここに手を出していくということです。
もちろん全く勉強しないでいつでも70点取れるぞ、というくらい得意なら問題ありません。
ですが少し勉強したら50点や60点を取れるようになった、これは得意科目だから70点を狙おう、という場合にはかなり険しい道になります。
60点から70点に上げるのには50点から60点に上げるときの何倍もの時間が必要です。
上述したように出題確率がグッと下がる部分に手を出しているからです。
苦手科目はどうする?
また反対に苦手科目だからと言って安易に目標50点とするのは非常にもったいないですし、こちらは危険でもあります。
まず、もったいないというのは先と同じ理由で、こちらは出題確率が非常に高い基礎的な部分を捨てていることになるからです。
難易度が例年通りなら基礎をマスターすれば60点近くは獲得できます。
得意(だと思っている)科目でプラスαの点を稼ぎに行くより、ふんばって苦手(だと思っている)科目で基礎だけを徹底する方が確実に効率はいいです。
また危険というのは50点を目標にしているということは、あと10点落とすと足切りだからです。
他科目でどんなに高得点を出そうともその年の合格はありません。
特に1問4点の科目(経済・財務・法務・情報)ならたった2~3問落としただけで8~12点もの失点になります。
苦手だから目標50点としているということは以下のいずれかが考えられます。
- 全体的に基礎があやふや
- 基礎的な論点のどこかを捨ててしまっている
その状態だと余計に2~3問落とすことなんて簡単に起こります。
60点の力の人が10点落とすのと50点の力の人が10点落とすのとでは、後者の方が確率が高くなってしまうということです。
苦手科目からの逃避に注意
さて、上記のようなことをわかっていても、苦手科目というのは楽しくないのでやりたくありません。
ですので、どうしても苦手だと思い込んでいる科目から得意だと思い込んでいる科目へと逃避してしまう。
また、なまじ得意科目があるとそれに頼ろうとする気持ちも強くなってしまう。
実は私も勉強の中盤でこの現実逃避をしてしまっていました。
その結果1か月前になって
- 得意だと思っている科目はよほどのことがないと70点は望めない
- 苦手科目は基礎があやふやで足切りの不安さえある
という状態に直面し大ピンチに陥りました。
仮に得意科目が科目合格できても、翌年苦手科目がそっくり残ってしまうという事態になりそうです。
- 得意(だと思っている)科目には手を出さない、数日前に軽く復習するだけにする
- 苦手科目の理解が浅い論点を集中的にやり、徹底的に基礎を固める
幸い運も味方して合格できましたが、直前一か月はほんとうにプレッシャーとストレスがすごかったです。
このようなことにならないためにどうすれば良かったのでしょうか。
自分なりに反省して作戦を立て直してみました。
得点配分を考えるときに気をつけた方がいいこと
①あらかじめ、あるいは早い段階で、不得意を決めたりしない。
捨て分野を作っていないのに合格レベルに及ばない科目があるなら、それは本当に苦手科目です。
ですが、そうでないのに先に苦手認定をするのはただの逃げです。
直前期に科目ごとの目標点に差をつけるのはいいですが、勉強中盤ならまず全科目60点以上を目指すべきです。
②馴染みのある科目は得点の貯金ではなく、勉強時間の貯金と考える
勉強前から合格点付近のレベルでもその科目は得点源にはなりません。
それよりもその科目の勉強時間を馴染みのない科目の基礎固めに回します。
③基礎から逃げずに苦手を早めにつぶす
基礎ができていない→苦手→楽しくない→やらない
この負のスパイラルを断ち切るには基礎をやるしかありません。
もちろん得意科目の方が楽しくできますし、苦手科目からは逃げたくなります。
しかし、ここで逃げないで苦手をつぶしに行けるかが合否の一つの分かれ目です。
基礎に粘り強く取り組めば一気に点数は上がります。
④10点も差をつけずに5点にする。(得意65点、苦手55点)
基礎は固めた、捨て分野もない、でもやっぱりちょっと苦手だと思ったら本当に苦手です。
普段その分野に関わっていない人ならどうしてもイメージしにくいというのは仕方がありません。
無理してこだわってもその科目はそれ以上点が上げにくいでしょう。
でも、その場合でも目標点は55点です。
理由は、テキストと過去問で基礎を繰り返せばここまではいけるはずだから。(例外的に苦手科目が「情報」だとちょっとキビシイかも)
また、このくらいの力なら足きりの危険をほぼ確実に回避できるから。
そして、得意科目を65点に設定します。
専門家クラスでない限り70点は運も味方しないとそうそう出ませんが、60点台半ばというのは堅実に狙える範囲です。
基礎を固めて問題慣れもすれば十分狙えます。
これで70点取れる科目があるから大丈夫という甘い見通しで痛い目を見なくてすみます。
※5点というのは問題にしてたった1~2問分でしかないですが、この差は大きいです。5点×7科目=35点です。
補足:二次試験直結科目に比重を置く作戦について
ちなみにこの「目標得点に差をつける戦略」の他のバージョンとして、二次試験に直結する以下の科目に力を入れる作戦というのもあります。
- 財務会計
- 企業経営理論
- 運営管理
ここを得点源にして他の4科目は60点以下でもいいという作戦です。
これは二次試験勉強との相乗効果を最大限に高められ、総合的には省エネになりそうということで私も最初はこうしようと思った作戦の一つです。
省エネは多くの人の目指すところだし、なにより一気に本丸を目指す華麗な作戦です。
ただ、受験後の今となってはこの記事に書いたのと同じような理由に下記の理由を加えてあまりいい手とは思えません。
- まず一次試験突破というのがそれほど簡単ではない。けっこう実力がある人でも一歩間違えれば・・・、という感じなので全科目まんべんなく学習し総得点を向上させた方がいい。
- そして、二次試験は一次知識うんぬんよりも、過去問トレーニング(アウトプットの練習)の重要性が圧倒的に大きい。知識も二次試験でよく使うものはかなり限られているのでそれはそれで勉強なり復習なりした方がはやい。
したがって、この相乗効果作戦を使った方がいい人はこんな人のみだと思います。
すなわち、二次対策の時間がものすごく限られているが、絶対に1年で二次まで突破したい人、そのためなら一次試験不合格のリスクがかなり上がっても構わない人、です。
そうでない人は確実に一歩ずつ取れるところを取る泥臭い戦略(特に暗記しただけ点になる「中小企業経営・政策」に力を入れるなど)が一番いいと思います。
まとめ
- 苦手を避けずに基礎を粘り強く学習することが大事
- 得意科目の得点に期待しすぎない(「得意」は自分がそう思っているだけかも)
資格試験は一発勝負ですが、長所を伸ばすより弱点を無くすことが重要です。
最も難しい試験と言われる宇宙飛行士の選抜試験も弱点がないということが最大の強みになるそうです。
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